概要

今年(2025年)は、2月から副業で起業を始め、5月末に Mujin を退職して起業にフルコミットし、9月中旬に起業失敗を宣言しました。そこから 2025 年秋の転職活動が始まりました。

Mujin ではバックエンド(超広義のバックエンド)を担当していました。得意領域は C++ で、起業していた 8 カ月間は AI を中心にやっていたため、転職活動では AI 応用エンジニア、バックエンドエンジニア、C++ エンジニアを主に狙いました。正社員としての累計経験年数はちょうど 3 年で、Mujin の最終職位は E2(Google L4 相当、ミドルクラス)でした。そのため、探すポジションもミドル〜シニアを中心にしました。

日本では永住権を持っているという点が多少有利かもしれません。ただ、日本はビザが比較的取りやすく(米国ほどではない)ので、このメリットの影響はそこまで大きくないと思います。本当にチャンスを広げるのは日本語力です。ただし、日本語必須の求人は給与が高くないことも多い(一般的な日系企業)です。一方で、Google や Amazon のような企業では、日本語が求められる高年収ポジションが出ることもあり、その場合は日本語ができないと機会を逃します。

私はビジネス日本語ができないため、英語求人に絞るしかなく、そもそも選択肢が少ないです。LinkedIn 上の関連求人は 1 日でほぼ出し切りました。日本は思ったより簡単ではなさそうで、言語面の不利もあるため、台湾も試すことにしました。最悪の場合は台湾に戻ることになると考え、台湾側の求人も 1 日かけて一通り応募しました。

日本で使ったプラットフォームは LinkedIn と Japan Dev です。また、xAI の deep search を使って、自分の背景に合いそうな企業を探してもらいました。公式サイトに採用ページはあるが LinkedIn には出していない会社も実際にいくつか見つかり、手動で応募しました。台湾では LinkedIn、Yourator、Cake を使いました。欧米の求人にも軽く応募しましたが、反応はありませんでした。日本・台湾の両方でヘッドハンターにも依頼し、毎日 LinkedIn を見続け、新しいヘッドハンターとひたすら会話するのが日課でした。結論としてヘッドハンターの効果はそこまで大きくありませんでしたが、この辺りは運の要素も大きいと思います。

9月中旬に転職活動を始め、10月下旬に日本の株式会社 T2 からオファーを受け、約 1 カ月で転職先が決まりました。かなり幸運で、本当に運に恵まれたと思います。

応募記録

応募した企業を簡単に記録しておきます。

  • 音沙汰なし・書類落ち: Woven by Toyota(複数職種に応募したが一切反応なし。過去に応募してブラックリストに入ったのかもしれない)、Cohera, Tier IV, OpenAI, Anthropic, ispace, Mapbox, Pairs, Amazon TW, Amazon JP, Applied Intuition, Rakuten, LegalOn, CookPad, Zeals, DeepX, MODE, CADDi, LexxPluss(AGV 背景があるのに落ちたのは意外), Rapyuta Robotics, TSMC, Japan AI, Sony など。ロボティクスと AI を中心に、日本を主戦場にしつつ、ついでに適当に投げたものも含まれます。
  • 反応はあったが辞退: Appier JP(友人に紹介してもらったが、返事が来たのは 1 カ月後。元々は第一志望で、Ad Cloud Bidding チームは条件が良く、面接で刷題がないと聞いていたが、T2 のオファーが出たので辞退)、詹姆斯科技(オファーが出たので辞退)、江夏株式会社(中資スタートアップでテーマに興味がない), Alpaca(暗号資産業界に興味がない), Speechify(挨拶もなくオンラインテストが届いた), Citadel Securities(同様)。辞退理由としては、2 社は面接案内が遅すぎたこと、また「HR からの最低限の挨拶もなくオンラインテストだけ送ってくる会社」が嫌いで、基本的に除外していることがあります。さらに、資金の透明性や将来性のある業界かどうかも重視しています。
  • 一次で不合格: PicCollage(先に課題があり、一次は HR + Tech Lead の面接。HR とエンジニアを同席させるのがかなり奇妙で、スタートアップなのに妙に古い雰囲気で、全体として少し退屈だった)
  • 二次で不合格: Citatel AI(日本のスタートアップ。一次は CTO との面談、次に課題、二次は課題の延長ディスカッション。回答が良くなく、結果としてよりシニアな候補者がいたと言われた), Vibranium Labs(シリコンバレーのスタートアップ。一次は米国 CTO と悪くなかったが、二次で台湾側責任者と合わず不合格)
  • オファー獲得: T2(HR からのスカウト。順調に進み採用)

公開されている求人は基本的に全部応募しましたが、最終的に面接まで進んだのは 4 社だけでした(オファー獲得後に来たものは除く)。数としては多くなく、転職活動の大半は「空虚さ」を感じやすいです。だからこそ、ある程度「手当たり次第に応募する」ことも重要だと思います。転職活動中は自分が忙しいと感じられる方が不安になりにくいです。新しい会社に応募し続ける、新しいヘッドハンターと話す、少しずつ面接が入る。これらは必ずしも理想の行き先に直結しませんが、心理的な安定につながり、同時に話す練習・面接の練習にもなります。

株式会社T2 面接経験

株式会社 T2 はトラックの自動運転をやっている日本のスタートアップです。たった 3 年で 200 人規模に拡大しており、資金の強さがうかがえます。最初は、T2 の技術責任者が LinkedIn の転職投稿を見て HR に連絡させたようです。また、Mujin の元同僚が T2 にいて、その点でも多少助けがありました。まさに「棚からぼたもち」のような面接招待でした。

正式面接の前に HR と面談があり、主に会社紹介でした。HR の英語はあまり得意ではありませんでした(T2 は日本語が公式言語)が、事前に友人から聞いていたので、何をやっている会社かは理解していました。面白いのは、これが「面接」ではなく、軽い雑談のはずなのに、いきなり「いくらなら来るか」を聞かれたことです。最初は少し驚き、「人を買う会社」っぽく感じました。ただし、T2 の資金は複数の大手企業が投資しており透明性が高いので、単に人手不足が深刻で奪い合いになっているのだと思います。HR 面談が終わった時点でも、私はどの職種で選考されているのかすら分かっておらず、職種は面接後に決めると言われました。

次に一次面接が入り、技術部長による技術面接でした。時間は 1 時間程度で、比較的オーソドックスな内容です。まず経歴を話し、そこから派生した質問があり、さらに C++ の知識も問われました。Effective C++ をしっかり読んでいれば答えられるレベルです。最後に趣味を聞かれ、私はスキーだと答え、さらに本を書いていることも話しました。そこに興味を持ってくれたようです。また、将来的にはマネジメント志向があることも伝えましたが、加点になったかは分かりません。相変わらず職種は分からないままでしたが、T2 側は早い段階から私を simulation にアサインするつもりだったようです。T2 は自動運転トラックの Level 2 テストを終え、次は Level 4 に飛ぶ計画で、そのためのシミュレーション環境を構築できる人材を必要としていました。評価されたのは実装力だったと思います。

二次面接は T2 本社での対面でした。ちょうど膝を怪我していたのですが、引き延ばしたくなかったので無理をして行きました。面接官は motion planning チームのリーダーで、新しい simulation チームは当面その配下になるからです。面接は 2 パートで、まずは上機試験で C++ のファイル処理と数学計算を実装する課題でした。難易度は高くありませんでしたが、妙な細部に引っかかり続けてしまい、一時はかなり緊張しました。後半は技術面接と行動面接で、システム設計、テスト設計、組織内コミュニケーション、リファクタリングなど幅広い質問がありました。C++ の上級質問では面接官を驚かせられたと思います。二次は当初 3 時間予定でしたが、最終的に 4 時間近くかかりました。これは良いサインで、通常は面接側が興味を持っていることを意味します。

HR 面談、一次、二次と、毎回「現職の給与」と「希望給与」を聞かれましたが、私はずっと回答を避けました。早い段階で低い数字にアンカリングされたくなかったことと、早すぎる高額提示で相手を引かせたくなかったからです。オファーが出てから相談しよう、と伝え続けました。ここまでの選考はポジティブなサインばかりで、その時点ではかなり自信がありました。

T2 の選考は基本 2 回で、二次通過後は翌日にオファーが来ると思っていましたが、実際は 1 週間近く待ちました。前半は順調に見えても不安はあり、中間はかなり焦りましたが、結果として問題は起きませんでした。

T2との給与交渉

正直、給与交渉をしたのは今回が初めてです。前職(初めての正社員)である Mujin では、提示された金額をそのまま受け取りました。金額が妥当だったことと、当時は「早く日本で働いて妻(当時は彼女)と一緒にいたい」という思いが強く、交渉材料がなく一方的に受け入れるしかなかったからです。今回は中途採用で、転職の切迫感もなかったので、交渉面で不利にはなりませんでした。良い機会を待てる立場でした。

T2 から話が進んだ後、交渉準備としてかなり時間をかけて調査し、解説動画もたくさん見ました。まず目標レンジを 3 つ用意しました。期待以上の高レンジ、市場相場に沿った中レンジ、最悪受け入れられる低レンジです。複数のチャネルで相場を把握し、交渉では状況に応じて使い分ける前提にしました。

さらに、AI と何度も模擬交渉を行い、本番で論理立てて話せるように練習しました。どの条件が自分に有利か、どの立場を主張すべきか、相手の反応がポジティブ/ネガティブのときにどう攻め/守りをするかを分析しながら練習しました。この AI との練習は、最終的な HR 交渉で大きく効いたと思います。

ここで、交渉時に使った前提条件と主張を共有します。

前提条件:

  • T2 は実務的にかなり高い数字が出ると事前に聞いていた。
  • T2 は人手不足が深刻で、スケジュール圧もある。
  • 新しい simulation チームは、業界背景と強い実装力を持つ人材が必要。
  • 面接のフィードバックが非常にポジティブだった。

主張:

  • 新設の simulation チームであり、難易度と責任が大きい。
  • Mujin と OSS の経験で技術基盤が深く、業界経験もそのまま活用できる。
  • simulation チームは今後増員される(少なくとも 5 人と聞いた)ため、いつでもマネジメント責任を担える。
  • 永住権があるので最短で入社できる(通常のビザ手続きは 2〜3 カ月以上)。

交渉は順調でした。準備が効いて、自分が提示した数字に値する理由を自信を持って説明できました。HR も社長の同意を取りに行くと言ってくれました。結果を待つ数日間は非常に長く感じ、毎日落ち着かず、期待と不安が入り混じり、夢にまで結果が出てきました。

数日後、結果が出ました。驚いたことに、T2 は私が提示した数字をそのまま受け入れ、1 円も削りませんでした。交渉の教材でよく言われる「準備をして、恐れずに主張すれば、チャンスが増える」という点を裏付けた形だと思います。もちろん、運も大きいです。たまたま私の能力が相手のニーズに合っていたのでしょう。結果が出た瞬間、迷いはなく、HR に「必ず入社する。期待を裏切らない」と伝えました。

2025年 台日転職市場の所感

全体として、2025 年秋の転職市場は良いとは言えませんでした。ミドルエンジニアであればジュニアより楽だろうと予想していましたが、実際は応募の大半が音沙汰なしでした。AI 系の求人が、起業経験 8 カ月が短すぎるという理由で反応が薄いのはまだ理解できます。しかし、C++ の求人や、過去のロボティクス業界経験に直結する求人ですら書類で落ちました。

今回の転職活動では、LeetCode をほとんどやりませんでした。C++ の手を戻すために、Selected 75 を少し解いた程度です。起業中は数カ月ほぼ C++ を書いておらず、少し鈍っていました。実際に面接まで進んだ会社は、どこも刷題を課さなかったので、刷題が必須とは限らないことも分かりました。ただし、刷題必須の会社を明確に避けたという事情もあり、大手一本で行くなら避けにくいと思います。

台湾で高年収を狙うなら、半導体か外資に行くしかない印象です。ただ、私は刷題を全くやりたくなかったこと、大手の生態にもあまり興味がなかったこと、そして日本にいつでも戻れるように一定のリモート柔軟性が欲しかったため、大手は基本的にスキップしました。実際に探してみると、台湾の純ソフトは競争力が弱く、「シニア」でも年収 200 万 TWD 未満(場合によっては 150 万 TWD)に収まることが多いです。シリコンバレー系スタートアップが台湾で出す求人でも 200 万 TWD 超はありますが、正直そこまで高くありません。だからこそ、みんな台積、NVIDIA、MediaTek などに行くのだと思います。同年代の友人は大手で 250 万 TWD 以上が普通です。

日本の相場もそこまで良いわけではありません。純ソフトは台湾よりは高い傾向があるものの、台湾の半導体は給与が高く税も軽いため、日本の給与が見劣りします。日本の中〜上位ソフトウェア職の上限は、だいたい 1,000 万〜1,500 万 JPY くらいが多いです。さらに上を狙うなら、Woven by Toyota、Amazon、Google、Indeed、JPMorgan、Bloomberg など数社に絞られ、2,000 万 JPY 超も可能ですが、難易度が高いです。例えば Google はそもそも欠員が少なく、あっても内転向けが多いです。総合的に見ると、台湾で大手(国内・外資)に入れるなら、CP 的には日本トップ企業より高い可能性が高いです。

台湾と日本の比較については、この記事が良かったです:「日本軟體工程師的薪水如何?到底值不值得去?

また、levels.fyi の情報を直接参照して、東京のソフトウェアエンジニアの給与感を掴むこともできます:
2025 日本東京軟工薪水情報

中央値は 800 万 JPY で、これは少し良い会社の新卒初任給に近い水準です。高めの指標としては 1,200 万 JPY で、東京の一般的なシニアエンジニアの価格帯です。PR 90 は 1,500 万 JPY で、よくある技術マネージャ層の水準です。2,000 万 JPY 以上は Google や Indeed のような例外です。ただ、こうした集計だけを見るのはやや雑で、年次と会社による影響が大きいです。levels.fyi は個別の給与データを展開して見られるので、同じ業界背景・年次の人の分布を把握できます。私は調査時に、数百件の給与データを 1 件ずつ展開して確認しました。

前職 Mujin を例にすると、Japan Dev では「Senior Embedded Software Engineer for Functional Safety」のレンジが 700 万〜1,100 万 JPY と出ており、シニアの上限が 1,100 万 JPY というのは相場認識と一致します。「Senior Computer Vision Engineer」は 900 万〜1,400 万 JPY で、Mujin は伝統的な CV エンジニアを探すため高めの予算になるのも納得できます。ただ、いずれも相場の範囲内で、Mujin は日本市場でも比較的払える会社(中前段)です。それでもこの水準なので、多くの会社はさらに低いでしょう。

一方、私の新しい会社である T2 は、エンジニアの予算を 1,000 万〜2,000 万 JPY としています。Google や Indeed を除くと、現状の日本市場ではこのレンジを出せる会社は多くありません。T2 が大量採用しているタイミングで入れたのは本当に幸運でした。興味があれば、ぜひ内推も相談してください。

結論

T2 がこの機会をくれたことには本当に感謝しています。もしこの機会にたまたま出会えず、かつ上司に評価されることもなければ、転職活動が数カ月〜半年に及ぶ可能性も十分ありました。内推してくれた友人、応援してくれた友人たち、いつも鋭い助言をくれるメンター、そして何より妻・両親・義両親の支えに感謝しています。おかげで転職活動の道のりは決して孤独ではありませんでした。

私は「人生には流れがある」と強く感じています。大学では生機系を学び、機械系の基礎(機械五力)は散々で、「この先はずっとソフトウェアだけで機械とは無縁だ」と思っていました。でも日本人の妻と出会い、日本で働くことになり、想像もしなかったロボティクス業界に入り、その後 T2 で自動運転に携わることになりました。ロボティクスで得た知識はそのまま活きていて、気づけば点と点が線でつながっています。まるで「あなたの価値はロボット・自動運転で発揮される」と言われているかのようです。次は新しい会社で、しっかり働くだけです。